Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さとう

麻布襍記 ――附・自選荷風百句

永井 荷風

Lesen Sie 麻布襍記 ――附・自選荷風百句 (さとう) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 37.256 Zeichen · 77 Bildschirme

Aozora Bunko

老人は静に箸を取って、「寅雄も今頃は船の食堂で食事をしているだろう。」

「雨が降出しましたけれど、船はいかがで御在ましょう。」

「いや三月になれば航海は穏かだ。わしが始めて洋行した時分の事を思えば船は三層倍も大きいし、心配する事はない。」

「寅雄の洋行ですっかり忘れて居たので御在ますが、あの今日はお父様の御命日で御在ました。」

「三月十日……そうだったな。」

「あなたが寅雄を送りにいらしった後で気がついたので御在ます。明日お墓へ行って参りましょう。」

「何年になるかな十三回忌の法事をしたのが先一昨年だったな。」

「お母様の方が来年丁度十年目だと思いました。」

「それでは其の中法事をしよう。」と老人は吸物を啜って、「この白魚は大変うまい。おかわりを貰おうか。」

「どうぞ。沢山御在ますから。」と老妻は給仕に坐っている女中を見返って、「掻き廻すと中のものが崩れますから丁寧によそっておいでなさい。」

「先代も晩年には白魚と豆腐がお好きであったな。老人になると皆そういうものかな。」

老人はその亡き父と母とが静な燈火の下に現在の自分と同じように物食うて居られた時の様を思い浮べた。