Japanische Klassiker mit Furigana
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こくてん
黒点
豊島 与志雄
Lesen Sie 黒点 (こくてん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.665 Zeichen · 62 Bildschirme
私は室の隅に縮こまっていたので、二人の話をよく聞きもしなかったし、またはっきり覚えてもいないが、八百円という言葉が何度もくり返されてるようだった。――今になって考えると、それは父が退職手当に貰った金高だったらしい。父は私が生れる遙に以前から、まだ母と一緒にならない前からずっとその時まで三十年間砲兵工廠に勤めて、五十歳になったので、八百円で逐っ払われたのだ。
三十分ばかりして、父は何処へか出て行った。私と妹と母と三人で食事をした。
母は何かしら興奮してるようだった。しょぼしょぼした眼をいつもより大きく見開いて、妹が御飯粒や醤油を少しでもこぼすと、すぐにがみがみ叱りつけた。かと思うと、その眼がまたすぐにじくじく水気ずいてきて、小さくどんよりとなって、箸の手を休めて物を考えこむのだった。
何かえらい事が起るんじゃないかと、そういう気が私はした。ところが実際は、全く思いもかけないようなことになっていった。
私は妹と二人で炬燵にあたりながら、新聞の広告の大きな字などを、虫眼鏡で眺めていた。それは隣りの寺田さんから貰ったもので、鯨骨の柄のついた非常に大きなものだった。