Clásicos japoneses con furigana
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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
Lee 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) de 原 民喜 (はらたみき) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 60.577 caracteres · 124 pantallas
だが、僕の弾んだ気持は容易に鎮まろうとしない。僕は父がしみじみ話し出せば出すほど、その下をくぐり抜けるように、くすくす笑った。その癖、僕はその時の父の言葉はみんな憶えていた。
やっぱし父の病気はただごとではなかったのだ。父は医者から胃癌の宣告を受けたのだ。もし手術をして経過が良ければ助かるかもしれないが、この儘ではもう先が見えていると云われたのだ。それで、父は思い惑った揚句、手術を受けることに決心したのだった。またはるばる手術を受けに旅に出ることになったのだ。だが、手術で失敗すれば、それきり助からないかもしれないから、これがお別れになるかもしれないのだった。――話のなか頃から僕は隣に坐っている兄が洟を啜りだすのに気づいた。見ると、兄の鼻翼を伝って大粒の涙が流れているのだった。それでも僕は何か目さきにちらつくおかしさを怺えることができなかった。そのうちに、父も眼に指をあてて、涙を拭いだす。僕はもう流石に笑わなかったようだが、それでも何か自分ひとり取残されているような、変な気持だった。僕は茶棚の上に飾られた翡翠の小さな香炉を眺めていた。子供の僕にはどうしてあんなことがおこったのかわからなかった。