Clásicos japoneses con furigana
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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
Lee 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) de 原 民喜 (はらたみき) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 60.577 caracteres · 124 pantallas
手
けれども下駄の履ける日はなかなかやって来なかった。重態になってからも、妻はよくその下駄を枕頭に持って来て見せてくれと云った。緒の色も今は少し派手であった。が、矢張その下駄をきりっと履きしめて歩ける日を夢みていたようだ。
天気のいい日など、私は今もあの下駄を履いて身軽に歩き廻る姿を思い浮かべ、その足音を耳の底に聴きとろうとするのである。
手
いたずらっぽい、小さな手であった。指もすんなりとして指さきは円々としていた。どの爪も、爪のつけ根にある三日月型のところが、はっきりと白かった。器用で、敏捷で、可憐な手だった。その手は、活花や習字やお茶の稽古にいそしんで来た手だった。その手は指にふっくらと肉が盛り上り、笑靨の浮んだような、健やかな手になりたがっていた。
「よく写真を視てみると、どの写真もお茶の手つきをしている」と嫂は云った。発病する前、睡れない床で、その手は茶の湯の手前のことばかりを考えていたのだ。
不思議なことに、どんなに容態が悪い時でも、爪のつけ根の三日月型は白く冴えて美しかった。死んで行った時も、その三日月は消えなかった。
私は古い写真をとりだして、指のところを注意して視た。