Clásicos japoneses con furigana
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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
Lee 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) de 原 民喜 (はらたみき) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 60.577 caracteres · 124 pantallas
それが今では殆ど毎日いろんな人と応対していた。彼は人と会うとやはり疲れることは疲れた。が、ぎこちないなりにも、あまり間誤つくことはなくなっていた。
『あなたが人と話しているのは、いかにも苦しそうです。何か云い難そうで云えないのが傍で見ていても辛いの』と、以前妻はよく彼のことをこう評したものだ。そして、人と逢う時には大概、妻が傍から彼のかわりに喋っていた。が、今ではもう人に対して殆ど何の障壁も持てなかった。賑やかな会合があれば、それはそのまま娯しげに彼の前にあった。だが、何もかも眼の前を速かに流れてゆくようだった。
どうして自分にはたった一人の身が養えないのだろうか……とその嘆きは絶えず附纏ったが、ぼんやりと部屋に寝転んで休憩をとることが多かった。自分で自分の体に注意しなければ……と誰かがそれを云ってくれているような気もした。どうかすると、どうにもならぬ憂鬱に陥ることもあった。が、そういう時も彼には自分のなかに機嫌をとってくれるもう一人の人がいた。
ある夜、代々木駅で省線の乗替を待っていると、こおろぎの声があたり一めんに聞えた。もう、こおろぎが啼く頃になったのかと、彼は珍しげに聞きとれた。