Clásicos japoneses con furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Lee 榎物語 (えのきものがたり) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 33.519 caracteres · 67 pantallas
さわの喉へ忍び笑いがこみあげてきた。さわは榎の幹に凭れかかり、肩をこまかくふるわせていたが、忍び笑いはすぐ啜り泣きに変り、それが長い嗚咽になった。
「あたしたちは本当に想いあってはいなかったのね」と暫くしてさわは、榎の幹を撫でながら云った、「あの人は待っていて下さいと云った、あたしは一生涯でも待つと云ったわ、嘘じゃなかった、あのときはしんそこそう思ったのよ、あたしは本当に一生涯でも待つ気でいたし、今日までその気持に変りはなかったのよ」
落葉がさわの躯にふりかかった。
「おまえは初めから見ていたわ」さわは嗚咽のあいだから云った、「あの人とあたしが忍び逢うところも、別れるときに二人がゆくすえを誓いあうところも、そうしてたぶん、それがほんものではなく、やがてはこんなふうになることもわかっていたんでしょう、ねえ、おまえにはみんなわかっていたんでしょう」
「どうすればいいの」とさわは続けて榎に問いかけた、「こんなことになって、これからあたしはどうしたらいいの」
越重へゆけ、という声が聞えた。意識の底からの囁きだったろう、さわには榎がそう云ったように感じられた。