Clásicos japoneses con furigana
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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Lee 次郎物語 (じろうものがたり) de 下村 湖人 (しもむらこじん) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 117.781 caracteres · 235 pantallas
女は、まだその時まで、仙吉を罵りやめないでいたが、次郎が自分の方を見ているのに気づくと、急ににっこりして、
「坊ちゃん、どうもご苦労さま。おかげでこの人に馬鹿にされないですみましたよ。……じゃあ、量ってもらいましょうかね。今日は容れものを拝借するのもどうかと思って、私の方で持参しましたよ。」
と、いったん表の方に出て、誰かを手招きした、すると、間もなく、襟に春月亭と染めぬいてある法被を着た男が、リヤカーに沢山の空罎をのせてやって来た。
次郎はその空罎が売場に並べられると、甕の栓をひねって、片っぱしから、それに酒をつめて行った。彼の手はいくぶんふるえていた。ただでさえまだ不慣れな手だったので、桝からこほれる酒がやけにあたりに散らばった。
「もったいないわね。」
女は、そばに立って、次郎の手つきを見ながら、何度もそうつぶやいた。また、
「いやに色がうすいようだね。色だけは灘酒みたいじゃないの。」
とも言った。次郎は、しかし、一言も口をきかなかった。そして、量り終って、女の手から預証を受取ると、それをその場でずたすたに裂いた。彼の眼には久方ぶりで涙がにじんでいたのである。