Lectura en japonés

Clásicos japoneses con furigana

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おせん

おせん

邦枝 完二

Lee おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.

N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 74.074 caracteres · 148 pantallas

Aozora Bunko

突然顔をあげると、吐きだすように藤吉を呼んだ。

「藤吉。――これ藤吉」

「へえ」

いつにない荒い言葉に、あわてて次の間から飛んで出た藤吉は、敷居際で、もう一度ぺこりと頭を下げた。

「何か御用で」

「羽織を出しな」

「へえ。――どッかへお出かけなさるんで。……」

「余計な口をきかずに、速くするんだ」

「へえ」

何が何やら、一向見当が付かなくなった藤吉は、次の間に取って返すと、箪笥をがたぴしいわせながら、春信が好みの鶯茶の羽織を、捧げるようにして戻って来た。

「これでよろしいんで。……」

それには答えずに、藤吉の手から羽織を、ひったくるように受取った春信の足は、早くも敷居をまたいで、縁先へおりていた。

「師匠、お供をいたしやす」

「独りでいい」

「お一人で。……そんなら提灯を。――」

が、春信の心は、やたらに先を急いでいたのであろう。いつもなら、藤吉を供に連れてさえ、夜道を歩くには、必ず提灯を持たせるのであったが、今はその提灯を待つ間ももどかしく、羽織の片袖を通したまま、早くも姿は枝折戸の外に消えていた。

「藤吉。――藤吉」

「へえ」

奥からの声は、この春まで十五年の永い間、番町の武家屋敷へ奉公に上っていた。