Clásicos japoneses con furigana
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あるおとこのしゅき
或る男の手記
豊島 与志雄
Lee 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 43.279 caracteres · 86 pantallas
そして家庭的な空気が少しずつ遠くへかすんでゆくにつれて、外部の新たな不安な空気が、私へ重くのしかかってきた。松本や光子や河野さんのことなどが、解くことの出来ない縺れをなして、壁のように立塞がっていた。それをじっと見つめて、苛立たしい焦燥のうちに室の中を歩き廻りながら、私は次第に或る忌わしい想像を打立てていった。まだ眼に残ってる光子の頸筋の斑点やら、俊子に対して懐いた恥しい疑惑やら、殊には河野さんが光子を渡さない処置などから、其他全体の事件の成り行きから、私はこのままで河野さんと光子との間が終るものかと想像して、云い知れぬ恥しさと憤激とを覚えた。その時私の頭に映った河野さんは、荒い赤毛を頭の上にむりに撫でつけ、太い眉の下にぎろりとした眼を光らし、皮膚のたるんだ頬に太い筋のある、ただ一個の人間ではなくて、獣的な力強い性慾を具体化したものだった。そして私はこんどの一切のことに復讐する気で、河野さんと決闘してみようかと思った。初めふと浮んだその考えは、何度も頭に戻ってくるうちに、ただそれだけがあらゆる屈辱を払いのける唯一の手段のように思われてきた。日本人だからとて決闘していけないわけはない、そう自ら心に叫んで、私は拳銃を手に入れる方法を考えたり、河野さんから借りた金額を胸勘定したりした。