Clásicos japoneses con furigana
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
Lee 扇野 (おうぎの) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 33.727 caracteres · 67 pantallas
「もういらっしゃらないのかと思ったわ」
「わかってるじゃないか」栄三郎は盃を取った、「あんな約束をしたばかりだし仕事があったから、がまんしていたんだ」
「毎日、待っていたのよ」おつるは彼に酌をし、手早く自分の盃にも注いだ、「――逢いたかったわ」
栄三郎はぎゅっと眼をつむった。短いそのひと言が、まるで鋭利な刃物かなにかのように、彼の心のまん中に刺し込まれたという感じである。彼は盃を口へもってゆきながら頷き、それから低い声で云った。
「頼むよ、どうかそれを云わないでくれ」
「あなたが悪いのよ」とおつるが云った、「あなたが初めにいらしったのが悪かったのよ」
「それだけじゃない、たとえ私が来たにしろ、おまえが私の座敷へあらわれなければよかったんだ」
「ふしぎね、この家へはあんまり来ないのに」とおつるは云った、「久しぶりにお座敷があって、お客さまが帰ったからお帳場で遊んでいたの、ここのおかみさんとは古いお友達で、来ると自分の家みたいにしているし、おかみさんのほうでも遠慮がないから、ちょっともう一つお座敷を手伝ってちょうだいって云われたのよ」
「それなら悪いのはおかみさんじゃないか」