Clásicos japoneses con furigana
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はる
春
岡本 かの子
Lee 春 (はる) de 岡本 かの子 (おかもとかのこ) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 23.864 caracteres · 48 pantallas
京子はお民に愚弄されたような不服な気持で其処へべたりと坐ってしまった。が、暫く膝に落して居た顔を上げた時、京子の瞳は活き活きと輝やき出した。
加奈子に取次いだ客がじき帰って、お民は女中部屋へ戻って来た。すると京子はさも待ち構えたようにお民を抱く手つきで訊いた。
――あの方、私の事、何て仰言った?
――何とも別に仰言いませんでしたが……。
――だって……
――もうお帰りになりましたよ。
――まあ。
京子は眼をきらきらさせてお民に問い寄った。
――あの方、私の事、何とも仰言らないで帰った? そんな筈ない。あの方、本当は私の処へ来た方なのよ。恥しいから奥様なんてかこつけたのよ。
――じゃお京様、遁げ込んでなんかいらっしゃらなければよござんしたのに。
――でも私恥しかったのよ。
お民は、取り合って居てもきりがないと思った。で、また縫いかけの仕事を始めた。京子も黙ってしまった。黙って横坐りのまま障子を見つめて居た。息は昂奮を詰めて居た。やがて京子は何かを見つけた。珍しく暖かい日の、春早く出た一匹の小さな蠅だった。蠅は孤独の児のように障子の桟を臆病らしくのろのろ這って居た。