Lectura en japonés

Clásicos japoneses con furigana

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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

Lee 私本太平記(四) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.

N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 229.324 caracteres · 458 pantallas

Aozora Bunko

彼は足をとめた。

つと、彼の目のまえに自分の影をさらした藤夜叉も、すくんだように、うごかずにいた。

「藤夜叉」

「…………」

また、ややまをおいて、

「藤夜叉、待っていたか」

と、寄って行った。

そして高氏は自分の心が命じるままに、ただの男になって彼女の肩へ手をのせた。女の誤解をなだめて、その不びんな恨みつらみに、ことばを尽して、よく得心を与えてやろう。それは当然な男の償いでもあるし、また後々のためにもと、思い直していたことだった。

だが、藤夜叉は、

「白々しい」

いきなり肩を外して、憎そうに、その手を振りはらッた。そして、

「殿」

と、恐い目で睨みつけた。その顔は、怨霊の女の、つやのない白さをたたえて、息づかいからして、すでにただではなかったのである。

ぎょっとして、高氏は、

「これっ」

叱りながら、無意識に体を退いた。すると彼女は、とたんに、その胸にむしゃぶりついて、体じゅうを揉んで泣いた。

怨むにせよ愛するにせよ、彼女の慟哭にはなんの交じり気もあいまいもない。高氏が自己を大望へ賭けているように、彼女も男へ賭けていた。全生命で泣くのであった。その黒髪へは高氏もつい、心にもない、しかし本心でもあるような、愛撫をみせずにいられなかった。