Clásicos japoneses con furigana
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たんでき
耽溺
岩野 泡鳴
Lee 耽溺 (たんでき) de 岩野 泡鳴 (いわのほうめい) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 55.597 caracteres · 110 pantallas
ある日、正ちゃんは、学校のないので、午前十一時ごろにやって来た。僕は大切な時間を取られるのが惜しかったので、いい加減に教えてすましてしまうと、
「うちの芸者も先生に教えていただきたいと言います」
と言い出した。
「面倒くさいから、厭だよ」と僕は答えたが、跡から思うと、その時からすでにその芸者は僕をだまそうとしていたのだ。正ちゃんは無邪気なもので、
「どうせ習らっても、馬鹿だから、分るもんか?」
「なぜ?」
「こないだも大ざらいがあって、義太夫を語ったら、熊谷の次郎直実というのを熊谷の太郎と言うて笑われたんだ――あ、あれがうちの芸著です、寝坊の親玉」
と、そとを指さしたので、僕もその方に向いた。いちじくの葉かげから見えたのは、しごき一つのだらしない寝巻き姿が、楊枝をくわえて、井戸端からこちらを見て笑っている。
「正ちゃん、いいものをあげようか?」
「ああ」と立ちあがって、両手を出した。
「ほうるよ」と、しなやかにだが、勢いよくからだが曲がるかと思うと、黒い物が飛んで来て、正ちゃんの手をはずれて、僕の肩に当った。
「おほ、ほ、ほ! 御免下さい」と、向うは笑いくずれたが、すぐ白いつばを吐いて、顔を洗い出した。