Clásicos japoneses con furigana
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おやばかにゅうどうき
親馬鹿入堂記
尾崎 士郎
Lee 親馬鹿入堂記 (おやばかにゅうどうき) de 尾崎 士郎 (おざきしろう) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 12.182 caracteres · 24 pantallas
便所へゆくために暗い廊下を歩いてゆくと正面の帽子かけに、コール天の小さい俵的の帽子のかかっているのが眼についた。それが白い壁を背景にして、ふわりと宙にういているのが哀れで痛ましく、急いで便所の電燈のスイッチをひねり、扉をあけると、そこに、いつも見馴れた俵的の小さい、碁盤縞をうかべたスリッパのおいてあるのが眼についた。私は胸を衝かれる思いで書斎へひっかえしてきたが、今夜ひと晩というかんじに駆りたてられると、もう、じっとしてはいられなくなってきた。そのまま、音のしないように表の戸をあけて外へ出た。もう時間は一時を過ぎていたが、川ぞいの道にさしかかると土手の片側をうずめている萩の花が闇の中でふるえるようにゆれている。それが、ぼうっと私の瞳に映った。四五日前、俵的と二人で川岸の通りを歩いて、こわれかけた石垣の上へ二人がならんで腰をおろしたときのことが、しきりに思いだされてくる。
何気ない、平凡な、ひとときではあったけれども、しかし私は、あのような愛情のほのぼのとくすぶるような哀感におそわれたことがなかった。あのとき、底の浅い流れの上に紺碧の空にうかぶ白い雲のかげが映っていた。