Clásicos japoneses con furigana
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のわき
野分
山本 周五郎
Lee 野分 (のわき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 21.401 caracteres · 42 pantallas
一
一
「なにがそんなに可笑しいんだ」
「だってあんまりですもの」運んで来た燗徳利を手に持ったまま、お紋は顔を赤くして笑い続けた、「……板前さんがあんまりなんですもの」
「板前がどうあんまりなんだ」
「若さまが鯊のあらいって仰しゃったでしょう、ですからそう通したんですよ、本当にちゃんとそう通したのに、今いってみたらこうやって、爼板の上へ黒鯛をのせているんです」そこでまたさも堪らないというようにふきだした、「……澄ましてこうやって黒鯛を作ろうとしているんですもの、鯊と黒鯛とまちがえるなんてあんまりだわ」
「ばかだな、それがそんなに可笑しいのか」
こう云って又三郎はもの憂げに盃を口へもっていった。……その夜、屋敷へ帰って寝所へはいってから、又三郎はふいとそのことを思いだし、ひとりでくすくす笑いだした。つまらないことをあんなに笑うお紋が可笑しくなったのだ。顔を赤くして片頬にえくぼをよらせて、くるしそうに笑いこける娘の姿も、ありありと眼に浮んだ。……後から考えると、それがお紋という者に眼を惹かれる、最初のきっかけだったのである。
蔦萬というその料理茶屋は、脇屋五郎兵衛という留守役の老人の案内で、一年ほどまえに知って以来の馴染だった。