Clásicos japoneses con furigana
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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
Lee 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) de 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 138.172 caracteres · 277 pantallas
何処にか、雪消の匂いを残しながら、梅も、桜も、桃も、山吹さえも咲き出して、蛙の声もきこえてくれば、一足外へ出れば、野では雉子もケンケンと叫び、雲雀はせわしなくかけ廻っているという、錦子が溶きかけている絵具皿のとけあった色のような春が、五月まぢかい北の国の、蝶の舞い出る日だった。
むかしの、出羽の郡司の娘、小町の容色をひく錦子も、真っ白な肌をもっている、しかも、十七の春であれば、薄もも色ににおってくる血の色のうつくしさに、自分でも見とれることもあるのだった。その生々しさが湧きあがったとき、この娘は、
――なんて拙いんだろう。
と、自分の描く絵が模写にすぎないのを、腹立たしくなっていた。
――この色は出やあしない。こんな、綺麗な色は、ちっとも出やあしないじゃないか、残念だが――
彼女は、自分の腕に喰いつくこともあった。と、そこにパッとにじみだして開いてくる命の花のはなやぎを、どんなふうに色に出したら写せるかと、瞶めながら匕をなげた。
匕を投げたといえば、錦子はお医者さまの娘だ。徳川時代には、お匕といえば、御殿医であることがわかり、医者が匕を投げたといえば病人が助からぬということであるし、匕を持つといえば内科医のことだった。