Clásicos japoneses con furigana
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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
Lee 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 111.569 caracteres · 222 pantallas
何年となく忘れていた過ぎし月日のことが捨吉の胸を往来した。黄ばんだ午後の日あたりを眺めながら彼が歩いて行く道は、昔自分が田辺のおばあさんに詰めて貰った弁当を持って学校の方へと通ったところだ。昔自分が柔い鉛筆と画学紙とを携え、築地の居留地の方まで橋や建物を写すことを楽みにして出掛けたところだ。身体の弱かった田辺の姉さんにもめずらしく気分の好い日が続いて屋外へでも歩きに行こうという夕方には、それを悦んで連立つおばあさんや静かに歩いて行く姉さんの後に随いて、野菜の市の立つ尾張町の角の方へと自分も一緒に出掛けたところだ。
土橋の方角を指して帰って行く道すがらも、まだ捨吉はあの旧の窓の下に、あの墨汁やインキで汚したり小刀で刳り削ったりした古い机の前に、自分の身を置くような気もしていた。壁がある。土蔵の上り段がある。玄関に続いて薄暗い土蔵の内の部屋がある。そこは客でもある時に田辺の小父さんが煙草盆を提げて奥の下座敷の方から通って来る部屋でもある。夜になると洋燈でその部屋を明るくして、書生は皆一つの燈火の下に集って勉強した。小父さんは書生を愛したから、一頃は三人も四人もの郷里の方の青年がそこに集ったことも有った。