Clásicos japoneses con furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lee 痴人の愛 (ちじんのあい) de 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 179.399 caracteres · 353 pantallas
てから後も、私を信じ、私の心持を理解し、私の為めを思ってくれました。私の下に二人の妹があるだけで、総領息子を手放すことは、女親としては淋しくもあり心細くもあったでしょうに、母は一度も愚痴をこぼしたことはなく、常に私の立身出世を祈っていました。それ故私は、彼女の膝下にいた時よりも遠く離れてしまった時に、一層強く、彼女の慈愛のいかに深いかを感じたものです。殊にナオミとの結婚前後、それに引き続いていろいろの我が儘を、母が快く聴いてくれる度毎に、その温情を涙ぐましく思わないことはなかったのです。
その母親にこうも急激に、思いがけなく死なれた私は、亡骸の傍に侍りながら夢に夢見る心地でした。つい昨日まではナオミの色香に身も魂も狂っていた私、そして今では仏の前に跪いて線香を手向けている私、この二つの「私」の世界は、どう考えても連絡がないような気がしました。昨日の私がほんとうの私か、今日の私がほんとうの私か?―――嘆き、悲しみ、愕きの涙に暮れつつも、自分で自分を省ると、何処からともなくそう云う声が聞えます。「お前の母が今死んだのは、偶然ではないのだ。母はお前を戒めるのだ、教訓を垂れて下すったのだ」