Clásicos japoneses con furigana
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ぐびじんそう
虞美人草
Lee 虞美人草 (ぐびじんそう) de Natsume Sōseki (夏目 漱石) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 198.559 caracteres · 401 pantallas
古き五年は夢である。ただ滴たる絵筆の勢に、うやむやを貫いて赫と染めつけられた昔の夢は、深く記憶の底に透って、当時を裏返す折々にさえ鮮かに煮染んで見える。小夜子の夢は命よりも明かである。小夜子はこの明かなる夢を、春寒の懐に暖めつつ、黒く動く一条の車に載せて東に行く。車は夢を載せたままひたすらに、ただ東へと走る。夢を携えたる人は、落すまじと、ひしと燃ゆるものを抱きしめて行く。車は無二無三に走る。野には緑りを衝き、山には雲を衝き、星あるほどの夜には星を衝いて走る。夢を抱く人は、抱きながら、走りながら、明かなる夢を暗闇の遠きより切り放して、現実の前に抛げ出さんとしつつある。車の走るごとに夢と現実の間は近づいてくる。小夜子の旅は明かなる夢と明かなる現実がはたと行き逢うて区別なき境に至ってやむ。夜はまだ深い。
隣りに腰を掛けた孤堂先生はさほどに大事な夢を持っておらぬ。日ごとにの下に白くなる疎髯を握っては昔しを思い出そうとする。昔しは二十年の奥に引き籠って容易には出て来ない。漠々たる紅塵のなかに何やら動いている。人か犬か木か草かそれすらも判然せぬ。人の過去は人と犬と木と草との区別がつかぬようになって始めて真の過去となる。