Clásicos japoneses con furigana
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ぐびじんそう
虞美人草
Lee 虞美人草 (ぐびじんそう) de Natsume Sōseki (夏目 漱石) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 198.559 caracteres · 401 pantallas
小野さんは自分の手元から半切れを伝わって机掛の白く染め抜かれているあたりまで順々に見下して行く。見下した眼の行き留った時、やむを得ず、睛を転じてロゼッチの詩集を眺めた。詩集の表紙の上に散った二片の紅も眺めた。紅に誘われて、右の角に在るべき色硝子の一輪挿も眺めようとした。一輪挿はどこかへ行ってあらぬ。一昨日挿した椿は影も形もない。うつくしい未来を覗く管が無くなった。
小野さんは机の前へ坐った。力なく巻き納める恩人の手紙のなかから妙な臭が立ち上る。一種古ぼけた黴臭いにおいが上る。過去のにおいである。忘れんとして躊躇する毛筋の末を引いて、細い縁に、絶えるほどにつながるる今と昔を、面のあたりに結び合わす香である。
半世の歴史を長き穂の心細きまで逆しまに尋ぬれば、溯るほどに暗澹となる。芽を吹く今の幹なれば、通わぬ脈の枯れ枝の末に、錐の力の尖れるを幸と、記憶の命を突き透すは要なしと云わんよりむしろ無惨である。ジェーナスの神は二つの顔に、後ろをも前をも見る。幸なる小野さんは一つの顔しか持たぬ。背を過去に向けた上は、眼に映るは煕々たる前程のみである。後を向けばひゅうと北風が吹く。