Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
そのぐるりの壁に貼りめぐらした絵の数が、一目で数えて三十余り、しかも男と名のつく者は、半分も描いてあるのではなく、女と、いうよりも、殆ど全部が、おせんの様々な姿態に尽されているのも凄まじかった。
その六畳の行燈の下に、机の上から投げ出されたのであろう、腰の付根から下だけを、幾つともなく描いた紙片が、十枚近くもちらばったのを、時おりじろりじろりとにらみながら、薬罐の湯気を、鼻の穴が開きッ放しになる程吸い込んでいた春重は、ふと、行燈の芯をかき立てて、薄気味悪くニヤリと笑った。
「ふふふ。わるくねえにおいだ。――世間の奴らァ智恵なしだから、女のにおいは、肌からじかでなけりゃ、嗅げねえように思ってるが、情ねえもんだ。この爪が、薬罐の中で煮えくり返る甘い匂を、一度でいいから嗅がしてやりてえくれえのもんだ。紅やおしろいのにおいなんぞたァ訳が違って、魂が極楽遊びに出かけるたァこのことだろう。おまけにただの駄爪じゃねえ。笠森おせんの、磨きのかかった珠のような爪様だ。――大方松五郎の奴ァ、今時分、やけで出かけた吉原で、折角拾ったような博打の金を、手もなく捲揚げられてることだろうが、可哀想にこうしておせんの脚を描きながらこの匂をかいでる気持ァ、鯱鉾立をしたってわかるこッちゃァあるめえて。