Classiques japonais avec furigana
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たきび
たき火
国木田 独歩
Lisez たき火 (たきび) de 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 3 674 caractères · 8 écrans
火の奥には過ぎし昔の炉の火、昔のままに描かれやしつらん。鮮やかに現わるるものは児にや孫にや。
昔の火は楽しく、今の火は悲し、あらず、あらず、昔は昔、今は今、心地よきこの火や。いう声は震いぬ。荒ら荒らしく杖を投げやりつ。火を背になし、沖の方を前にして立ち体をそらせ、両の拳もて腰をたたきたり。仰ぎ見る大ぞら、晴に晴れて、黒澄み、星河霜をつつみて、遠く伊豆の岬角に垂れたり。
身うち煖かくなりまさりゆき、ひじたる衣の裾も袖も乾きぬ。ああこの火、誰が燃やしつる火ぞ、誰がためにとて、誰が燃やしつるぞ。今や翁の心は感謝の情にみたされつ、老の眼は涙ぐみたり。風なく波なく、さしくる潮の、しみじみと砂を浸す音を翁は眼閉じて聴きぬ。さすらう旅の憂もこの刹那にや忘れはてけん、翁が心、今ひとたび童の昔にかえりぬ。
あわれこの火、ようように消えなんとす。竹も燃えつき、板も燃えつきぬ。かの太き丸太のみはなおよく燃えたり。されど翁はもはやこれを惜しとも思わざりき。ただ立去りぎわに名残惜しくてや、両手もて輪をつくり、抱くように胸のあたりまで火の上にかざしつ、眼しばだたきてありしが、いざとばかり腰うちのばし、二足三足ゆかんとして立ちかえれり、燃えのこりたる木の端々を掻集めて火に加えつ、勢いよく燃え上がるを見て心地よげにうち笑みぬ。