Classiques japonais avec furigana
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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
Lisez 『たぬき汁』以後 (あわもりものがたり) de 佐藤 垢石 (さとうこうせき) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 118 470 caractères · 244 écrans
それは四、五年前、浅間山の北麓六里ヶ原の渓流へ、山女魚釣りに行ったときのことだ。折柄六月中旬で、標高三千尺のこの六里ヶ原へはまだ春が訪れたばかりの頃であった。北軽井沢で案内人を雇い、鬼の押し出しの方から流れる濁り川と呼ぶ渓流へ足を入れた。
渓流は、その頃まだ冬枯れのままの叢林に掩われている。案内人と二人は、ある場所で渓流を徒渉して対岸へ渡ろうとして、砂の河原へ降り立ったとき、案内人が突然、
「あった」
と、叫んだ。私は、
「なんだ、なんだ」
と、驚いて案内人の傍らへ走り寄ると、案内人が無言で指す砂の上に、大きな獣の足跡が、花弁のように凹んでいる。
「熊だよ」
「いけねえ、いけねえ。僕は、これから奥へ入るのは、もうご免だ」
「大丈夫だよ。この足跡で見ると、熊は五、六時間も前に通り過ぎている。案じねえ」
「ほんとか?」
「大丈夫だろうに――」
そんなわけで、次第次第に叢林を潜り抜け、鬼の押し出し近く、水源の方へ渓流を遡って行った。ところが、三、四百坪ほどある草原へ出たとき、また案内人は、
「あった」
と叫んで踏み止まった。見ると、案内人の脚の先に、獣の青い色した糞の山がある。