Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
この一事だけでもその幸福は遥に王侯に優る所があるだろうと、松崎博士は覚えず声を出して笑おうとした。
* * * *
君江は舞踊家木村義男と牒し合して、カッフェーを出てから有楽橋の暗い河岸通りで待合せ、自動車で三番町の千代田家という懇意な待合へ行った。そして松崎のおじさんから教えられたように先へ帰る振りをして別の小座敷に姿をかくし、素知らぬ顔で清岡先生を迎えるつもりであったが、車の道すがら話の様子で、君江は木村が案外さばけた男で、女給には恋人の二人や三人あるくらいの事は当前だと思っているらしいので、千代田家の裏二階へ通ると、すぐさま今夜の始末をそのまま打明けてしまった。すると、木村は案の定どこまでもおとなしく、
「始めから打明けてくれれば、こんな心配をさせなくってもよかったのに。許してくれたまえ。僕がわるかったんだ。その代り今度都合のいい時ゆっくり逢ってくれたまえ。」
木村はわざと追立てるように君江をせき立て、手つだってその帯まで結んでやった。
君江は始め邦楽座の舞台で活動写真の幕間に出演する木村の技芸を見た時から例の好奇心に駆られていたので、このまま別れるのが物足りなくてしようがない。