Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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つゆのあとさき

つゆのあとさき

永井 荷風

Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans

Aozora Bunko

時静な下駄の音と共に褄を取った芸者の姿が現れた。二人はいよいよ身を斜にして道を譲りながら、ふと見れば、乱れた島田の髱に怪し気な癖のついたのもかまわず、歩くのさえ退儀らしい女の様子。矢田は勿論の事。君江の目にも寐静った路地裏の情景が一段艶しく、いかにも深け渡った色町の夜らしく思いなされて来たと見え、言合したように立止って、その後姿を見送った。それとも心づかぬ芸者は、稲荷の前から左手へ曲る角の待合の勝手口をあけて這入るが否や、疲れ果てた様子とは忽ち変った威勢のいい声で、「かアさん。もう間に合わなくって。」

君江は耳をすましながら、「矢さん。わたしも芸者になろうと思ったことがあるのよ。ほんとうなのよ。」

「そうか。君江さんが。」と矢田はいかにもびっくりしたらしく、その事情をきこうとした時、早くも目指した待合の門口へ来た。内にはまだ人の気勢がしていたが、門の扉の閉めてあるのを、矢田は「おいおい」と呼びながら敲くと、すぐに硝子戸の音と、下駄をはく音がして、

「どなたさま。」と女の声。

「僕。矢さんだよ。」

「あら、大変御ゆっくりねえ。」と門の扉を明けた女中は、君江の姿を見て、いくらか調子を改め、「さア、どうぞ。