Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
いいでしょう。」
「そうだな。」と男は曖昧な返事をしながら帽子を取った。
「ねえ、遊びに行きましょうよ。どの道今夜はゆっくり遊ぶ日じゃないの。」と君江は既に梯子段の降口に出た清岡の身に寄添い、接吻してと言わぬばかりに顔を近寄せ、睫毛の長い目を軽くふさいだ。
清岡は憎い仕方だとは思いながら、もともと嫌いではない女のいかにも艶しく情を含んだ姿を見ると、その瞬間はさすがに日頃の怒りも何処へやら消え去って、生れつき売笑婦にでき上っているこういう女に対して、道徳上とやかく非難するのはあるいは過酷かも知れない。男の劣情を挑発する一種の器械だと思えば、自分の見ない処で何をしていても更に咎むべき事ではない。弄ぶだけ弄んで随意に捨ててしまえばそれでよいのだというような心持にもなる。忽ち進んで、それにしてもこの女がもすこし自分の心を汲み分け、その身を慎しんで、自分の専有物になってくれればという慾望が次第に強くなって来る。清岡は横を向いてさり気なく、
「とにかく夜になったら銀座で逢おう。その時にきめよう。」
「ええ。そうして頂戴。」と君江は急に明い顔になって一足先にばたばたと下へ降り、おばさんの手から雑巾を奪い取って、手ずから清岡の靴を拭いた。