Classiques japonais avec furigana
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つゆのあとさき
つゆのあとさき
永井 荷風
Lisez つゆのあとさき de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 725 caractères · 148 écrans
市ヶ谷の堀端へ出る横町は人目に立つので、二人は路地から路地を抜けて士官学校の門前に出で比丘尼坂を上って本村町の堀端を四谷見附の方へ歩いた。昼前のことで、二人は並びながらも少し離れて話もせず、君江は日傘に顔をかくしていたが、ふとこの堀端は昨夜十二時過電車を降りてから矢田と手を引合って歩いた同じ道だと思うと、夜と昼との相違から、君江はどうして昨夜はあんな矢田のような碌でもない男の言う事をきく気になったのだろうと、自分ながらその腑甲斐なさに厭な心持がした。清岡さんがそれと知ったらどんなに怒ることだろうと、日傘のかげからそっと男の横顔を窺うと、少しは気が咎めもするし、またいかにも気の毒でならないような心持もして、これからはカッフェーの帰り道にはなりたけ慎しんでその場かぎりの浮気は起すまいという気にもなる。せめての申訳というではないが、何やら急に清岡の事が恋しくなって、君江は歩きながら突と摺寄って人通りをもかまわずその手を握った。
清岡は君江が石にでも躓いて、そのために急に自分の手を握ったとでも思ったらしく、「どうしたんだ。」と言いながら、往来の人目を憚って溝際の方へ少し身を避けた。