Classiques japonais avec furigana
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きなだむら
ゼーロン・淡雪 他十一篇
牧野 信一
Lisez ゼーロン・淡雪 他十一篇 (きなだむら) de 牧野 信一 (まきのしんいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 27 321 caractères · 54 écrans
僕もまた訊ねる余裕を持たなかった。
「だが、ふと気づいてみるといつも壁に懸けてあるそれが――」
と彼は僕の身装を指差した。――「それが見あたらないので、こいつはきっと俺と行き違いになったんだろう、と思ったから慌ててマメイドに引っ返して、張番をしていたんだが、その間の切ない気持といったらなかった。君の気配を外に聞くと娘はあんな風に飛び出して行ったんだが、俺は体中が無性に震えあがるばかりで動けなかったんだよ。そして俺は妙に落着いた口調で、君に、折角支度をして来たのに気の毒だったな――なんていったが、実はその恰好の君を見つけると俺は一層嬉しくなって、何にもいえなくなって、言葉を間違えてしまったんだよ。」
「この旗が再び海の上に飜ることになったのは何年ぶりなの?」
いつからともなくそこの壁に掛っている『七郎丸』の旗誌を僕は、感慨深く見あげながら質問した。僕たちは、その旗に関しては七郎丸が大酔をした時に、たった一遍話材にした以外には、不断はいい合せたかのようにそれについては口を緘して僕も、見て見ぬふりをして来たものである。
「……で俺は、この部屋を舟に見立てて意気を鼓しているんだよ。