Classiques japonais avec furigana
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ヘヤーピンいっぽん
ヘヤーピン一本
豊島 与志雄
Lisez ヘヤーピン一本 (ヘヤーピンいっぽん) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 8 246 caractères · 17 écrans
「いや、僕の分まで払ったかと思ってね。」
「ばかなこと言いなさんな。」
そうだ、ばかなこと言うもんじゃないと、俺は煙草をすぱすぱ吹かした。
岩木周作の家は、焼け残りの閑静な地域にある。板塀の上から差出てる百日紅の枝に、きれいな花が咲いていた。
訪れると、細君の久子さんが出て来た。名前は知ってるが、初対面だ。背は高い方で、顔の輪郭から、眼や鼻や口や、身体つきまですべて、如何にも細そりした感じのひとである。――あとで岩木から聞いたところによると、彼女は嘗て肋膜を病み、それから引続いて神経衰弱の痼疾になやんでいるとか。
俺の名刺を見て、彼女はひどく驚いたらしい。
「まあ、どうしましょう。」
独語を呟いて、それから我に返ったようだった。主人がたいへん待っていたこと、市役所の何かの委員会に出かけているが、電話をすればすぐに帰って来るだろうことなど、口籠り加減に言う。だが、家にあがれとは言わない。
俺はちょっと困った。
「それでは、そのへんを少し散歩してきますから……。」
辞し去ろうとすると、彼女はあわてて引留め、座敷へ俺を通した。そして引込んだきり、なかなか出て来ない。