Classiques japonais avec furigana
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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
Lisez 一本の花 (いっぽんのはな) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 26 709 caractères · 55 écrans
彼は、そう云って、机の上にひろげた新聞の上へ両手をつき、片手をあげて、ぐるりと頭の後を掻いた。
朝子のいる室を板戸で区切った隣室で、二人の職工がこんなことを云っている声が聞えた。
「――陰気くさいが、柳なんぞ、あれで、陽のもんだってね」
「そうかねえ」
「昔何とか云う名高い絵描きが幽霊の絵をたのまれたんだとさ。明盲にしたり、いろいろやるが凄さが足りない。そこで考えたにゃ、物は何でも陰陽のつり合が大切だ。幽霊は陰のものだから陽のものを一つとり合わせて見ようてんで、柳を描いたら、巧いこと行ったんだって」
「ふうむ」
「――死ぬと変りますね、男と女だって、生きてるときは男が陽で女が陰だが、土左衛門ね、ほら、きっと男が下向きで、女は上向きだろう。――陰陽が代って、ああなるんだとさ」
「……じゃあお辞儀なんか何故陰の形するんだろう……」
工場らしい話題で、朝子は興味をもち、返事を待った。けれども、何故辞儀に陰の形をするのか、職工はうまい説明が見当らなかったらしく、やや暫くして静かに、
「そりゃ私にも解らないねえ」
と云う声がした。
三
五時過ぎて朝子は帰途についた。