Classiques japonais avec furigana
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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
Lisez 一本の花 (いっぽんのはな) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 26 709 caractères · 55 écrans
――朝子の編棒は、同じように動いている。彼女は黙っている。大平も黙ってしまった。突然、幸子が机から、
「えらく静かだな」
と云った。
「何してるの」
「うむ……」
「さあ、もう一息ですみますよ」
気を入れなおし、机にこごみかかった幸子の背なかつきを見て、朝子は愕然として気になった。彼女は、幸子がそこにいるのを知りながら忘れていた瞬間の長さ、深さが、幸子に声をかけられ、初めて朝子の意識にのぼったのであった。非常に幸子と無関係などこへかへ心が去っているようで、そのままでは、ふだんの位置に置いて幸子を認識するのにさえ困難を覚える。そんな気持だった。
この覚醒は、実に我ながらの愕きで朝子を打ち、彼女は、今幸子に振りかえられては堪らない心持になった。彼女は、ぼんやり燃えるような顔をして、部屋を出てしまった。
「おや、いなかったの!」
幸子の意外そうな声が、こちらの室で鏡の前に佇んでいた朝子のところまで聞えた。
八
翌日、朝子は編輯所へ出かけて行った。
事務をとっている間にも、時々、昨夜の、心を奪われた異様な感じが甦って来た。その度に朝子は一時苦しい気持になった。