Classiques japonais avec furigana
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ちちをさす
乳を刺す
邦枝 完二
Lisez 乳を刺す (ちちをさす) de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 17 474 caractères · 35 écrans
「お待たせいたしました。只今お嬢様は、御不在でございますが、旦那様が、お目にかかりますそうで。……どうぞお上がり下さいまし」
袖ノ井が留守とは意外であったが、このまま引き退ることは出来なかった。
壁の落ちかかった奥の間へ導かれた伝七は、この家の主を見ると心の中で思わず「あッ」と叫んだ。
「伝七殿と申されるか。わしは袖の父、真斎でござる」
床の上へ坐っているのは、業病も末になったのであろう。顔は崩れ、声は嗄れて、齢さえも定かでない老人であった。
「どなたにも、お目に掛からぬのじゃが、御用の筋と聞いてお通し申した。どのようなことでござろうか」
「ほかでもござんせんが、実は、袖ノ井さんの朋輩衆の、伊吹屋のお由利さんが、ゆうべ急に亡くなられましたんで、袖ノ井さんに、何かとお訊ねいたしたいと存じやして……」
「何と云われる。由利殿が亡くなられた?……あの娘御とは、殊の外親しくいたし、昨夜もここへ見えられたが……」
「左様でござんすか。そんなに、仲よくしておいでなすったんで?……」
「左様。着る物も髪のものも、みな揃いのものを、用い居ると申して居ったが、袖が聞いたら、さだめし嘆くことでござろう」