Classiques japonais avec furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lisez 二つの途 (ふたつのみち) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 51 102 caractères · 104 écrans
そして頭の中で、凡ての観念を自分と同じ深い底に落付けさせようとした。ともすると、一つの観念がぽかりと上の方へ浮び上った。彼はそれを漂い所へ引き寄せた。また他の観念が浮び上った。彼はそれを引寄せた。やがてその仕事に倦み疲れて眼を開くと、信子がまだ炬燵によりかかっていた。
「もうお寝みよ。」と啓介は云った。
信子は驚いたように顔を上げた。真蒼な色をしていた。眼をきょとんと据えていた。暫くして思い出したように返事をした。
「はい。」
それが余り程経てだったので、啓介はくり返した。
「もうお寝みよ。起きていなくてもいいから。」
信子は眼をくるりと動かした。
「寝たくないから、勝手に起きてるんですわ。」
啓介は黙ってまた眼を閉じた。彼女の心が最も悪い状態に在るのを彼は知った。責任が自分に在るような気がした。自責の念が益々深められていった。然し悔恨となっては現われなかった。ただ深い自己沈潜を助けるのみだった。彼は殆んど夢幻の境にまで沈んでいった。どん底に達したかと思うと、また一段と深い所が現われてきた。自分は存在してるという意識の底に、その仄白い明るみの底に、更に空虚な闇が湛えていた。