Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lisez 二つの途 (ふたつのみち) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 51 102 caractères · 104 écrans
十五
この夜中に!」
二人は口を噤んだ。高子は床の上に居座いを直した。深い沈黙が室の中を支配した。啓介は、先の太い木下の手指を見つめていた。木下はそれを痙攣的に震わした。そして、ゆるやかな殆んど聞き取れない位の声で云った。
「岡部、僕はほんとの苦しみにぶつかるためにやって来たのだ。それが、君を苦しめに来たような形になってしまった。許してくれ。」
然しその調子には少しもしみじみとした所はなかった。暗い渦の中から湧き出る声のようだった。啓介は眼を伏せた。木下は立ち上った。彼は黙って室を出て行った。
木下の足音が廊下の向うに消え去ってしまうと、信子はつと起き上った。啓介がじっと寝ていた。
十五
翌朝、木下は婆やと同時に起き上った。その前にも一度起き上って画室に行ったが、黎明前の冷たい夜の空気に、彼は震え上った。煖炉に火を焚こうとしたが、あたりが余りに静まり返っていた。誰にともなく――必ずしも岡部や信子に対してばかりでなく――物音が憚られた。彼は帰って来て、また蒲団を被った。昨夜からの苦しい悪夢のような考えが、機械的に連続して、頭が惑乱のうちに汗ぼんできた。手足の先は冷えきっていた。