Classiques japonais avec furigana
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イタリアのことう
伊太利亜の古陶
宮本 百合子
Lisez 伊太利亜の古陶 (イタリアのことう) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 15 477 caractères · 31 écrans
愈々自分の見識で、この皿を贋物と判定してしまうと、奇妙なことに日下部太郎は、今迄とまるで異う一種の愛着が、この皿に対して湧き起るのを感じた。
それは、明かに皿を憐れむ心持といえた。彼は工人の欲で、僅か一字か二字無くてよい漢字か欧字かが描き加えられたばかりに贋物とされる皿が可哀想であった。文字で汚されないうちは、兎に角それはまだ贋物ではない。巧拙の差こそあれ、それはそれとしての美と命とを享けている。柄相応に、観られもする。愛されもするだろう。ところが二度三度の余分な筆触で、陶器は贋物地獄に堕される。声が出せたら、陶工がさてと偽の署名をしかけた時、皿や花瓶は一斉に哭いて拒んだだろう。
「やめてくれ、やめてくれ。どうぞあなたの名を書いてくれ」と。
日下部太郎に皿は生きものであった。無抵抗な、而も情感をなみなみと内に湛えた一つのいとしい生物のように思われるのであった。
窓際に佇んで、側棚に近より遠のき、飽きず眺める日下部の挙動を見守っていた高畠夫人は、彼の様子に殆ど「恋々」という形容詞があてはまりそうな何ものかが在るのに驚いた。
次の日は、日曜であった。