Classiques japonais avec furigana
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きずあとのはいけい
傷痕の背景
豊島 与志雄
Lisez 傷痕の背景 (きずあとのはいけい) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 19 022 caractères · 38 écrans
それから、窓際に腰を掛けた。
「スパイめ!」
だが、変に憂欝に、膝頭に両肱をつき、両手に※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)をもたして、考えこんだ……。
長くたってから、彼は顔を挙げて、室の中を見廻した。有吉の来訪が、不思議なものを齎して、彼は自分の住居を、初めて見るように眺めたのである。
向うの隅の、英子の小さな机、婦人雑誌、鳥の羽をさした筆立、電燈の笠にかかってる、凉しい色どりのリリアンの編物……。更に、奥の室との仕切が払われて、そこに、大きな鏡台、無数という感じの雑多な化粧壜、化粧刷毛、バスケット、派手な衣類が取散らされてる、仰向けの甲李の蓋……。
あの晩、夜更けに、彼女は破れるように扉を叩いて、彼のところへ飛込んできた。
「あたし、あたしだって……意趣返しをしてやる。」
視線を空に据え、下眼瞼と黒目の縁と、二つの円弧の間の、純白な一線から、大粒の涙を、ぼろぼろとこぼした。それから突然、笑い出して、彼の茫然とした顔を、不思議そうに眺めた。いきなり彼の首に飛びついてきた。
「さあ、キスして頂戴、キスして……。それだけ。それ以上は求めないことよ!」