Classiques japonais avec furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lisez 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 160 664 caractères · 323 écrans
二十隻の船はピタリと止まる。
ここ辺りは入江であって、蘆や芒が水際に生い、陸は一面の耕地であり、所々に森があったが、諏訪明神の神の森が、ひとり抽んで、聳えているのは、まことに神々しい眺めである。
その神の森を遠く囲繞し、茅葺小屋や掘立小屋や朽葉色の天幕が、幾何学的の陣形を作り、所在に点々と立っているのは、これぞ水狐族と呼ばれるところの、巫女どもの住んでいる部落であった。炊ぎの煙りが幾筋か上がり、鶏犬の啼き声が長閑に聞こえ、さも平和に見渡されたが、しかし人影が全く見えず、いつもは聞こえる人の声が、今日に限って聞こえないのは、決して平和の証拠ではない。
船の上から頼正は水狐族の部落を眺めていたが、たちまちその眼を湖上へ返すと、颯と扇を頭上に上げた。とたんにドブンという水の音。灘兵衛が水中へ飛び込んだのである。見る見る湖面へ波紋が起こりそれが次第に拡がって行く。
「さて今度はどうであろう? 石棺の在所は解らずとも、手懸りでもあってくれればよいが」
頼正は船首に突っ立ったままじっと水面を窺った。
突然彼は「あっ」と叫んだ。彼の視線の落ちた所、蒼々と澄んでいた水の面がモクモクモクモクと泡立つと見る間に牡丹の花弁さながらの、血汐がポッカリと浮かんで来た。