Classiques japonais avec furigana
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ちくまがわのスケッチ
千曲川のスケッチ
島崎 藤村
Lisez 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 81 668 caractères · 164 écrans
と地主は隠居の顔を見た。
「ああ四斗七升か」と云い捨てて、辰さんは庭の方へ出て行った。
私達は炬燵の周囲に集った。隠居は古い炬燵板を取出して、それを蒲団の上に載せ、大丼に菎蒻と油揚の煮付を盛って出した。小皿には唐辛の袋をも添えて出した。古い布で盃を拭いて、酒は湯沸に入れて勧めてくれた。
「冷ですよ。燗ではありませんよ――定屋様はこの方で被入っらしゃるから」
こう隠居も気軽な調子で言った。地主は煙管を炬燵板の間に差込み、冷酒を舐め舐め隠居の顔を眺めて、
「こういう時には婆さんが居ると、都合が好いなア」
地主の顔には始めて微かな笑が上った。隠居は款待顔に、
「婆さんに別れてからねえ、今年で二十五年に成りますよ」
「もう好加減に家へ入れるが可いや」
「まあ聞いて下さい。婆さんには子供が七人も有りましたが、皆な死んで了った……今の辰は貰い子でサ……どうでしょう、婆さんが私の留守に、家の物を皆な運んで了う。そりゃ男と女の間ですから、大抵のことは納まりますサ……納まりますが……盗みばかりは駄目です。今ここで婆さんを入れる、あの隠居も神信心だなんて言いながら、婆さんの溜めたのを欲しいからと人が言う。