Classiques japonais avec furigana
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なんぼく
南北
横光 利一
Lisez 南北 (なんぼく) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 19 591 caractères · 40 écrans
に、一寸手さきを湯の中につけていた。が、更に又彼は自分の愛人の姿を思い浮べて考えた。もしそうして彼女が自分の博愛を聞き知ったとしたならば? それは確に幸福な婚姻の日を、早めるに役立つことになるだろう。
秋三は着いた。不足な賃銀を握った馬丁のように荒々しく安次を曳いて、
「勘次、勘次。」と呼びながら這入って来た。勘次は黙って出迎えた。
「これ勘公、逃げさらすなよ。」
「遠いところを済まんのう、何んべんも。」
秋三は急に静な微笑を浮べた勘次のその出方が腑に落ちかねた。
「安次、手前ここに構えとれよ。今度俺とこへ来さらしたら、殴打しまくるぞ。」
安次は戸口へ蹲んだまま俯向いて、
「もうどうなとしてくれ。」と小声で云った。
「当分ここにおったらええが、その中に良うなろうぜ。」
そう勘次が静に云うと、安次は急に元気な声で早口に、
「すまんこっちゃ、すまんこっちゃ。」
と云いながら続けさまに叩頭した。勘次は落ちつけば落ちつく程、胸の底が爽やかに揺れて来た。が、秋三は勘次の気持を見破ると、盛り上って来た怒りが急に折れて侮辱の念に変って来た。と同時に安次の弱さに腹の底から憎悪を感じると、彼の掌はいきなり叩頭している安次の片頬をぴしゃりと打った。