Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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はるかなたび

原民喜戦後全小説

原 民喜

Lisez 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) de 原 民喜 (はらたみき) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 60 577 caractères · 124 écrans

Aozora Bunko

山脈と空との接するあたりに、まだ見ぬ遠国への憧れがあり、夕ぐれの光線は心を遥かなところへ連れて行こうとするのだ。……だが、階下の方へ降りて行くと、静三は居間のところで忽ち陰気な気持に引戻されることがあった。電灯がともる頃まで、借家管理人と静三の母はだらだらと対談していた。その痘痕だらけの老人はキセルをはたきながら、乾からびた声で、借家人の誰彼を罵っている。それから大きな革の鞄を披いて札束を数える。――中学生の静三にはそれが高利貸というものの姿を想像させ、たまらなく憂鬱になるのだった。ある日その情景を眺めていると、ふと、「金利生活者」という言葉が頭に泛んだ。もうその頃、少し社会学の本をかじり始めていた彼には、ぼんやりと身のまわりが見えはじめた。梅津商店の決算が年二回行われていること、それから、その商店の由来、――それは、陸軍用達商として発展して来たのだが、そのことの意味、――それらが静三にはだんだん厭わしく思えだした。

休暇で東京から兄の敬一が帰って来るたびに、兄は新しい刺戟を静三に与えた。新しい時代がもう始まろうとしていた。敬一はやはりその頃覚えたばっかしの社会主義の理論を口にし、家族制度の崩壊を予言したりするのだった。