Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

Lisez 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 11 954 caractères · 24 écrans

Aozora Bunko

お二人はどうして一緒にならないのでしょう――と時折香折の母は、近所の人達に非難の調子で訊かれたりしました。――こればかりは他の儘にもなりませんから――母親はそういって淋しく笑う外はありません。

まして香折の懊悩は見る眼もいじらしい程でした。綾麿が何んのために、三日にあげず出て行くか、その行先も用事も、悉く知り尽しているのに、自分の魅力や誠心では、それを引き止めて、全身全霊を此方へ投げかけさせることの出来ない悲しさは、何に譬えるものがあるでしょう。

その頃はもう、香折は朝夕綾麿の家に入り浸って、身の廻りの世話に没頭し切って居りました。近所の衆もそれを怪しもうとせず、五十石取りの御家人の娘が、三千五百石の大旗本の若様の世話をするのを、旧弊な母親は心の中で奨励するほど、世の中からはまだ封建的な習慣が脱け切れなかったのです。

そうしているうちに、南郷綾麿の心もまた、少しずつではあったにしても、現身の温かい血肉を盛った、香折の可憐さに傾いて来たことも事実でした。恋は矢張り何時までもプラトニックではあり得ず、観音様に寄せる思慕が、何時かは人間への恋に変るのに何んの不思議があるでしょう。