Classiques japonais avec furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lisez 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 11 830 caractères · 24 écrans
それから東野南次も、五階の事務所に泊って、朝も昼も夜も、母親を助けて、外廻りの用事に没頭し、時々は病床の幽里子を、扉の隙間から覗いて、その感謝の瞬きに応えたり、それとはなしに励ましたりしておりました。
一日一日と幽里子は健康を回復して、二週間目にはもうベッドの上に起直っておりました。
「多少の内出血があるから、せめて三週間は」
という医者の意見で、まだ家へ帰るわけにはいきませんが、留守宅に用事も溜っているから――と母親は一日目黒の家に帰り、臨時に雇った看護婦も出かけて、東野南次が、その代り半日の世話を引受けることになった日のこと、
「どうです幽里子さん、顔色もすっかり良くなりましたよ」
東野南次は世間並なことをいいながら、その寝台の傍に腰をおろしておりました。
「有難う、先生にはとんだお世話になって――」
幽里子の顔には珍らしく若々しい血が上って、心からそういいながら、手はツイ赤ん坊のように、南次の方へ伸べられるのです。
「でも良かった――あなたに死なれたら、どうしようかと思いましたよ」
東野南次は、極めて自然にその感謝の手をとっておりました。
幽里子が瀕死の重傷を受けて、夢心地に東野南次に抱きあげられた時、その白い額に雨と降った、南次の唇を記憶しているとしたら、こう心安くは手を伸べなかったかもわかりません。