Classiques japonais avec furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lisez 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 841 caractères · 22 écrans
お菊を迎えた当時の、阿武隈大膳正の有頂天さは、全く馬鹿馬鹿しいほどでした。暫らくはその新鮮さと可憐さに魅惑されて、夜も昼も無い惑溺の生活を続けたと言っても差支は無いでしょう。
それにも拘らず、肝腎のお菊は少しも楽しまず、その豊かな頬からは笑いが消え、その輝かしい眼からは、青春の光が失せて、半歳経たないうちに、それは見る影もない生ける屍になってしまったのです。
お菊の胸を往来するものは、役者らしくもなく純情な中村新八郎の姿で、阿武隈大膳正の、情痴に爛れた醜怪な大肉塊は、恐ろしく厭わしく、そして汚らわしくさえ思われました。一方阿武隈大膳正にも、そのお菊の心持が反映しないわけに行きません。惑溺がやがて嫌悪に代り、嫌悪が憎悪に変って、翌年の春の参観交代で、大膳正が江戸へ出府する時は、三文字紋弥の手を借りて、何んの未練もなく、この哀れな女を処分してしまったことは言うまでもありません。
青※(「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2-93-20)大名――阿武隈大膳正は、斯うして三人目の犠牲を葬りました。が、長袴に附いた一片の埃を払い落したほどの関心も持たず、その年の三月には早江戸の桜の下に、奥方の厳しい眼を逃れ乍ら、新らしい歓楽を追う大膳正だったのです。