Classiques japonais avec furigana
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ろうじゅうのめがね
小笠原壱岐守
佐々木 味津三
Lisez 小笠原壱岐守 (ろうじゅうのめがね) de 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 57 249 caractères · 115 écrans
わしが大切にしている靴だから、大切に磨かずばなるまいという心掛けが、育ちに似合わずなかなか殊勝じゃ。もう少しはきはきしておったら、出世出来んもんでもないが……」
「…………」
クスクスと平七が突然笑った。
「なにがおかしい! ――どこがおかしいんじゃ」
「わたしはそんなつもりで、磨いていたわけではないんですが」
「ではどんなつもりで磨いたというんじゃ」
「こうやってぼんやり手を動かしておると、心持が馬鹿になれますから、それで磨いていたんですが」
「またそういうことを言う! そういうことを言うから、なんとか出世の道を開いてやろうと思っても、する気になれんのじゃ。馬鹿になる稽古をするというならそれでもいいが……」
ぽかりと穴があいたように、突然そのときどうしたことか、平七のもたれかかっていた裏木戸が、ギイとひとりでに開いた。
すぐにそこから小径がつづいて、あたりいちめんに生い繁っているすすきの穂の先を、あるかないかの風が、しずかな波をつくり乍ら渡っていった。
きのうに変って、カラリと晴れたせいなのである。そよぎ渡るその風の間に、このあたり向島の秋らしい秋の静寂が初めて宿って、落ちかかった夕陽のわびしい影が、かすかな縞をつくり乍ら、すすきの波の上を流れていった。