Classiques japonais avec furigana
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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Lisez 怪しの館 短編 (あやしのやかた) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 81 915 caractères · 165 écrans
(娘は?)
とこのことばかりを思っていた。
(どこへ行ったろう? 何をしているのだ! こんな時に、こんな物騒な時に!)
廊下の方から、部屋部屋から、二階からも階下からも、足音、悲鳴、呶声、罵しり声、物を投げる音、襖障子を開閉する音が、凄まじく聞こえて来た。
――五人の湯治客が囲炉裡側で、片耳のない武士の話をしていると、表戸を蹴開き十数人の捕り方が混み入り「三国峠の権という盗賊この家に潜みおる、縛め取るぞ」と叫び家探しにとりかかった。裏口からも捕り方は侵入したらしく、その方からも足音や呶声が聞こえて来た。
それはほんの寸刻前のことで、今はもうこの店の間には、捕り方も湯治客もいなかった。捕り方は奥へ走り込み、湯治客たちは散々に逃げたからであった。
「娘は?」
暴風の吹いた後のように、帳場格子は折れ、硯箱はひっくりかえり、薬罐は灰神楽をあげている店の間を、グルグル廻りながら(娘は?)と佐五衛門は、そのことばかりを思った。
(あッ、風呂へはいりに行ったっけ!)
やっと思い出した。そこで行燈を抛り出し、廊下の方へ走り出した。
「お父様アーッ」
と、お蘭が、その廊下から駆け込んで来た。