Classiques japonais avec furigana
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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Lisez 怪しの館 短編 (あやしのやかた) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 81 915 caractères · 165 écrans
「全く恐ろしい呼吸でござったのう」
「妖怪でござるよ。妖怪でござるよ」
三人が口々にこう云ったのは不思議な屋敷の門前から五町あまりも逃げのびた時で、三人の胸は早鐘のように尚この時も脈打っていた。
翌日三人は打ち揃って改めてその屋敷まで行って見たが、そこにはそんな屋敷はなくて柏屋という染め物店が格子造りに紺の暖簾を風にたなびかしているばかりであった。
この弓屋敷の不思議の噂は間もなく江戸中に拡がった。本所七不思議はさらに一つ「弓屋敷の矢声」の怪を加えて本所八不思議と云われるようになった。弓道自慢の幾人かの武士は自分こそ妖怪の本性をあばいて名を当世に揚げようと屋敷の玄関までやっては来たが、大概一矢で追い返されよほど剛胆な人間でも二筋の矢の放されるを聞いては、その掛け声その矢走りの世にも鋭く凄いのに怖気を揮って逃げ帰った。
「ごめん」
とある日一人の男が柏屋の店を訪ずれた。年の頃は二十五、六、田舎者まる出しの仁態で言葉には信州の訛りがあった。
「へい、染め物でございますかね」
柏屋の手代はこう云いながら、季節は七月の夏だというに盲目縞の袷を一着なし、風呂敷包みを引っ抱えた、陽焼けた皮膚に髯だらけの顔、ノッソリとした山男のようなそのお客様を見守った。