Classiques japonais avec furigana
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われにそむく
我に叛く
宮本 百合子
Lisez 我に叛く (われにそむく) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 29 414 caractères · 59 écrans
そして、すがすがしい夜気の中に燈火をてらし、ひやりと冷たい机の前に坐り、さて、心を鎮めて紙に向う。――が、一夜二夜経つうちに、ゆき子は思いも懸けない新しい事実を発見した。
それは、この六畳さえも、今はもうただ、静寂な一室、というだけの影響しか、自分の心に持っていないということなのである。
先、ゆき子は、陽気な食堂や客間からここに引取って、一旦、静に光を吸う茶色の砂壁に囲まれさえすれば、もうそれだけで完全に、集注した心を取戻せた。暗い曲りくねった廊下と、低い襖に画られた一重こちらは、さながら、いつも見えない感激に満ちた霊魂の仕事場であったのである。
それが、今、ここに坐ると、ゆき子は、極くなみなみの静けさのみを感じた。先ず、ほっとする。そして、机の上に頬杖を突き、濃い庭の闇からぼんやりと浮上っている紫陽花の若芽を見守っているうち、心は仕事に集結するどころか却って模糊として来る。そして、その放心の奥から次第に真木の存在が、はっきり俤(おもかげ)に立って来るのである。
特別、彼が恋しいのではない。また慕わしさに気もそぞろになるというのでもない。併し、日中は、まるで見えない腕で確かりと抱き竦めたように、直面(ひためん)に、唯、彼女と彼等との交渉ほか意識に休ませない周囲の状況が、自らほんとに独りになると、彼女に