Classiques japonais avec furigana
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あるおんなのしゅき
或る女の手記
豊島 与志雄
Lisez 或る女の手記 (あるおんなのしゅき) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 18 447 caractères · 37 écrans
ただ陰欝な顔であったこと、顔と頭と全体で私を見つめていたこと、それだけを覚えている。
その四五日、私は彼の姿を見なかった。所が或る日、檜葉の茂みに隠れて私の方を眺めてる彼を、通りがかりに見出したのであった。それから後は、私の方でも注意し初めた。すると、植込の影や、石牌や築山の影などから、私の方を窺ってる彼の姿を、度々見出すようになった。それを見出さなくても、何処からかじっと覗かれてるような気がした。私はお寺の前を通るのが、非常に気味悪くなった。
五月の初めだったと思う。私が学校の往きに通りかかると、彼は箒を手にして、而も別に庭を掃くような様子もなく、御門のすぐ向うの石畳に、ぼんやり立っていた。私は喫驚したが、物影から覗かれるよりはまだよかった。所がその日学校の帰りにも、やはり同じ姿勢の彼を見出したのであった。その時、彼の顔が非常に蒼ざめてること、彼の白い着物が薄黒く汚れてることに、私は気付いた。彼は私をじっと眺めたきり、かすかな微笑みも見せなかった。私はしいて何気ない風を装いながら、少し足を早めて通りすぎた。
今考えると、私は馬鹿だったのだ、何にも知らなかったのだ!