Classiques japonais avec furigana
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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
あるおとこのしゅき
或る男の手記
豊島 与志雄
Lisez 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 43 279 caractères · 86 écrans
殊に相手が、反感も憎悪もない快い異性の時にそうである。私は甘っぽく嵩にかかってゆく気持になって、急な大事な話というのを聞かないで、このまま光子を放すものかと決心した。そして、どうしたら彼女が話し出すだろうかと思い惑ってる所へ、高い角張った建物や電車自動車の響きや忙しげな通行人など、眩しい錯雑した都会と、私が朧ろげながら推察してる彼女の話の内容――恐らくは恋愛問題――とが、相容れない世界となって心に映ってきたので、こんな風ではとても駄目だと思って、知らず識らず歩みを止めた。もういつのまにか堀端に来ていた。葉の散った柳の細い枝影を、派手な大柄な絣の米琉の着物に粗らに受けて、一二歩先で足を止めて私の方を振向いた彼女の姿が、堀の水と空とを背景にくっきりと浮出して見えた。
「いい天気だから、郊外でも少し歩いてみましょうか。」と私は、その瞬間の咄嗟の思いつきに自ら微笑みながら云った。
「ええ、先生さえお差支えございませんでしたら。」と彼女は平気で答えた。そして日傘の先で、ぐいぐいと地面をつっついた。――水浅黄に黒で刺繍のしてある日傘を、彼女はその日一度もささないでステッキのように持ち歩いたのを、私は今はっきりと思い出す。