Classiques japonais avec furigana
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とびらはかたらず
扉は語らず
小舟 勝二
Lisez 扉は語らず (とびらはかたらず) de 小舟 勝二 (こぶねかつじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 4 481 caractères · 9 écrans
――彼はガラス窓を透して夜を知らぬ地上の繁栄を眺めやった。八時半に近い。人の出盛りだ! 彼の胸には急に人恋しさ、灯の街恋しさの念が湧き上って来た。馬鹿らしいロマンチシズムだ! そして彼はまだ夜食を摂っていない。非常な空腹を覚えて来た。笑えない生理的欲求だ!
「よし、逃げ出すと決めた!」彼は錠を外ずして扉を開けた。「勤務成績なんか糞喰らえだ。一杯の珈琲のためには……おや何んだ?」
扉を四五寸開けかけて、彼は彼自身の眼と耳に疑惑を持った。敢えて「家具部倉庫の扉だから」と云うわけではない。然し此の扉は実際素張らしい出来だ。ピッタリ閉めると完全に外部の音響を遮断する! ところで彼が扉を開けた刹那に売場の方から男声が飛込んで来たのである――
花の巴里のどん底の
闇に咲いたる血の華は
罪と罰との泥水の
中に生れた悪の華………
それと同時に扉の間隙から、彼は意想外な光景を目撃した。彼の観念の裡に、暗黒と沈黙とから形造られていたビルディングには、どうやらあちらこちらに燈光が輝やいているらしいではないか! そして彼の視線の尖端には幾つかの小さな人影が立ち働いている! 畜生、何んということなんだ?